単カメラとモキュメンタリー
笑い声のないコメディは長く難しいとされてきました。観客がどこで笑えばいいか分からない、と。その常識をゆるめていったのがこの節です。
『となりのサインフェルド』については「ラフトラックを使っていない」とよく言われます。正確には少し違うようです。監督のひとりの証言によれば、編集や仕上げで笑いを足して増やすことはせず、むしろセリフを覆ってしまう笑いを削るほうが多かった。ただし観客のいないロケの場面には、ちぐはぐにならないよう控えめに足したとも報じられています。「使わなかった」ではなく「基本は生の笑いで、足すより削った」が実際に近い。
2005年の『The Office』(米国版)は、英国版のドキュメンタリー形式と笑い声なしの方針をそのまま引き継ぎました。カメラに向かって人物が目をやる——その視線が、笑い声の代わりに「見ている人がいる」を伝えます。9シーズン201話つづきました。
ただし「これがシットコムの標準を変えた」と言い切るのは、少し早いかもしれません。『モダン・ファミリー』が賞を独占していた2011年の時点で、視聴率のトップ10はむしろ観客つきの作品が占めていたと報じられています。変わったのは賞と批評の基準、そして次の企画が通りやすくなったこと。テレビの標準は、賞と数字で別々に動くことがあります。