警察ドラマの現代
1997年の『踊る大捜査線』がしたのは、刑事ドラマの敵を入れ替えることでした。犯人ではなく、組織。所轄と本庁、現場と会議室、根回しと縦割り——警察を「役所」として描いたのです。刑事が走るのは犯人を追うためだけでなく、上を説得するためでもある。前の時代(→刑事アクションの時代)が青春だったとすれば、ここから刑事ドラマは会社員の物語になりました。
その変化を一言にしたのが、あの台詞です。ただし、どこで言われたかは思われているのと違います(神話の訂正欄)。
同じころ、まったく別の方向も開いていました。1994年に始まった『古畑任三郎』は倒叙——犯人と犯行を先に全部見せてしまい、刑事がどう追い詰めるかだけを見せる形式です。誰がやったかで引っぱらないと決めた瞬間、面白さは会話そのものに移ります。脚本は三谷幸喜。本人は「『刑事コロンボ』を観たかったから『古畑任三郎』を書いた」と語ったと伝えられています。
この帯の強さは、続いていることでもあります。2000年に単発として始まった『相棒』は2002年に連続ドラマになり、シーズンを重ねつづけています。そして2020年の『MIU404』は、機動捜査隊の24時間を通して社会の断面を書きました。同じ脚本家の『アンナチュラル』とゲストが行き来し、のちの映画も含めて同じ世界の出来事として作られています——アメリカのドラマが得意としてきた共有世界を、日本の作家が別のやり方でやっている場所です。
神話の訂正
「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」は、テレビシリーズ『踊る大捜査線』の名場面
この台詞が出てくるのは、テレビシリーズではなく映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』(1998年)のクライマックスです。テレビシリーズは1997年の全11話で、そちらの名台詞は和久平八郎(いかりや長介)の「正しいことをしたければ、えらくなれ」のほう。脚本の君塚良一が、中間管理職の知人たちの「現場を分かっていない会議で物事が決まる」という嘆きから作ったと語られています。なお語尾は「現場で起きてるんだ!」と「現場で起きてんだ!」の両方が流通していて、この地図では活字で確認できた前者を採っていますが、映画本編での正確な形はまだ確かめきれていません。