ベーシックケーブルの反撃
HBOが証明したのは「広告のないテレビなら、大人の物語が撮れる」ということでした。ではスポンサーのいるチャンネルは、指をくわえて見ているしかなかったのか。ここが、この帯のいちばん面白いところです。
最初に手を挙げたのはFXでした。2002年『ザ・シールド 特命捜査班』は、初回で主人公の刑事が同僚を撃ちます。広告つきのチャンネルで、そんな主人公を置いた。放送コードで言えないこと・映せないことが多いぶん、この帯のドラマは暗示と緊張で語る技術を磨きました——制約が、様式をつくったのです。
もうひとつの主役は、名前からして意外な局でした。AMC=American Movie Classics。古い映画を流しつづけてきたチャンネルです。そこが2007年『マッドメン』でオリジナル制作に踏み出し、翌2008年に『ブレイキング・バッド』を出します。テレビ史でいちばん濃い二本が、映画の再放送局から出てきました。
なぜ挑めたのか。ケーブル局は収入が二本立てだからです——広告料と、ケーブル会社から受け取る配信料(carriage fee)。話題作を一本持つと、後者の交渉力が上がる。視聴率で即座に回収できなくても、評判が資産になる仕組みがあった。プレステージTVは志だけで生まれたのではなく、そういう財布の形からも生まれています。
反撃が届いたことは、賞の記録にはっきり残っています。エミー賞の作品賞をケーブルが初めて取ったのは2004年『ソプラノズ』——有料のHBOでした。その四年後、2008年に『マッドメン』が同じ賞を取ります。広告のあるチャンネルとして、初めて。四年ぶんの距離を、映画の再放送局が詰めたことになります。